ふにゃおすとは

ふにゃオス

ふにゃおすとは

ある夜、修業先での営業を終え、厨房の隅に腰を下ろしたときのこと。
疲れ切った腕から包丁を置くと、力が抜けて“ふにゃ”と笑いが漏れた。
その瞬間、足一 冬真の中で何かがほどけた。
「強くあらねば」「完璧でなければ」──そう思い込んでいた自分に、
初めて優しく頷けた気がしたのだ。

「ふにゃ」とは、力を抜く音。
頑張ることを少しだけやめて、柔らかくなった心の音。
そして「おす」は、男として、料理人として、
それでも前を向く自分への呼び名。
両方を合わせた「ふにゃおす」は、
“弱さを抱きしめて生きる男”の象徴として生まれた。

出汁は、火を止めると白く濁る。
けれどその濁りこそが、旨味と優しさの証だと冬真は気づいた。
完璧ではない、少し濁った一滴。
その中にこそ、人生の滋味が宿っている。

だから1986年2月に暖簾を掲げ始めたその日。
この店の名を「ふにゃおす」とした。
強さよりも、柔らかさの中にある“芯”を信じて。
訪れる人すべてが、少しふにゃっとして帰っていけるように。

看板に掲げた言葉は、
「見たかったのはあなたの笑顔。」
それは、かつて自分自身が見失っていた笑顔を取り戻すための祈りでもある。
湯気の向こうでふにゃっと笑う、その一瞬こそが──
「出汁と料理 ふにゃおす」の存在理由なのだ。

ふにゃおす